偶然の祝福

偶然の祝福 (角川文庫)

偶然の祝福 (角川文庫)

前にも書いた通り, 小川洋子の文体は村上春樹にヒケをとらぬくらいドライで淡々としていると思っているのである. だからこそ好きで昨年から少しずつ読みはじめているのだが, どうも「博士…」には手が出ないヒネクレモノなもんで, 周囲(?)からジワジワと攻めていっているわけである.
一番最初に読んだ「まぶた」のときに明確に感じたのが, 小川洋子作品には必ず*1「痛み」がスパイスのように含まれている, ということだった. 心の痛み, のようなメタファではなく, 直接的な身体的痛みが, 比較的穏かな語り口で穏かな話をしている中に, 必ず, そして, 突然, 登場して, ドキ, とさせられる. 思う壺なのである.
本作も, ある女性作家にまつわる緩やかで切ない連作短編なのだが, 一作一作, それが決められた事であるかのように, 必ず「痛み」が現れる. ナイフで羊の皮を剥ぐ, 暴行を受けて殺される, ストーリー的には必ずしも不可欠ではないこれらの「痛み」の要素が, 読後には話の芯のような大切な役割を果たすようにすら感じるのである.

*1:これも前に書いた註の通り, サンプルは数冊だけである.