数学の楽しみ

数学の楽しみ―身のまわりの数学を見つけよう (ちくま学芸文庫)

数学の楽しみ―身のまわりの数学を見つけよう (ちくま学芸文庫)

「科学離れ」などという言葉が嘘だとしか思えぬほど, 数学啓蒙書というものは, それこそピンからキリまで大量に存在している. この手の本は大きく分けて「数学好きに対してさらなる面白いトピックを提供するもの」と「あまり数学に興味がない人に対して数学の面白さを知らしめようとするもの」の二種類があるのだが, いち数学好きの目から見て, 後者で成功しているように見える本というのは非常に少ない. ほとんどは「数学好きが自分が面白いと思っていることを, ね, 面白いでしょ, といった風情で, 自分が面白いと思うに任せて, 数学好きにしか分からぬ言葉で語っているだけ」という非数学好きにとっては苦痛でしかないような本だったりするわけである.
僕の体験から考えると, 多くの場合「数学嫌い」な人というのは「数学とは何か」を勘違いしているだけであるようであり, つまり, 数学の面白さを知らしめるためには「数学のどこが面白いか」ではなくただただ単純に「数学というのはこういうことを考える学問である」ことを伝えればよいのではないか, と思うのである.
本書は, 「数学的」な様々なトピックをただただ紹介しているだけ, という意味ではまさにそれを実践している本である. できる限り具体的なトピックを選択している点も, 啓蒙書としては効果的なのではないか. 問題提起をすることが目的であり, それに対する解答は全くと言ってよいほど無い. これに対し「何故そうなるの?」と思わせればしめたもの, といった態度なのであろう. 参考文献が大量に挙げてあるあたりからもそんな意図が窺える.
原書は二十年近く前に書かれ, 既に確固たる評価を受けている本であるから, トピックに新鮮味がないことは仕方がないとして, やはり「既に数学好き」が読むには手応えがほとんどない内容であることは否めない*1. 雑学本的に細かいトピックが羅列されているのだが, その順番はランダムで, 内容の近いトピックが全然別の所に登場する. これは意図的なのだろうが, 他項に非常に関連の深いトピックも沢山登場するが, その参照先を明示しているのは一部だけである. せめて索引でも付けてくれれば, もう少し読み易くなったのではないか, と思うのである.
この本をこのまま「非数学好き」な人にポンと渡して読ませたとして果たして数学に興味を持ってくれるか, というと, それはかなり怪しい. ただ, 「非数学好き」に対して数学の魅力を語って説明したりするときの種本としては役立つのではないか, とは思う.

*1:個人的に, 初見で面白かったのは「ガーフィールド大統領による三平方定理の証明」くらいであった