マシアス・ギリの失脚

マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)

マシアス・ギリの失脚 (新潮文庫)

政治と経済に振り回される近代社会と, 自然と伝統に振り回される原始的社会の共存と対立を, 大国に翻弄されながらも精神的支柱は霊的なものに激しく依存している小さな島国を舞台に描いている, といったところか. 現代日本だって, 極近代化されているようなフリをしているが, スピリチュアルだ宗教だと, 結局は原始的, 精神的, 霊的な要素からは絶対に逃れられない. 近代的な政治や経済が社会を動かし, 統率しているなどという考えは幻想に過ぎないのではないか. 権力を分散させたところで, 結局のところ政治をメタな立場から監視するのは倫理性という原始的・精神的な基準である.
純化してしまえば話のテーマはそんなところではないかと思うのだが, 極めて現実的な話からバスリポートに象徴される極めて幻想的な話まで, また, 様々なエピソードに世界の様々な地域が登場したり, スタイル的にも地理的にもとにかく振幅のデカい(SFなどを考えなければ原理的にほぼ最大ではないか?)話である. 雑学などがとってつけたように登場する文体はあまり好みではないが, 非常に楽しく読めた小説である.