静かの海

静かの海

静かの海

もちろん, 藤子不二雄手塚治虫も, はたまた「ドラゴンボール」やら「MONSTER」やら「動物のお医者さん」やら「のだめカンタービレ」も読むし, ある人に強く勧められた「ハチミツとクローバー」に興味を持ったりもしているのだが, 基本的には漫画といえば「ややマイナ・緩み系」を好むのである. あくまでも「ややマイナ」であって, 中型本屋に行けばたまに並んでいる, 大型本屋ならば大概何冊か見つかる, そういった程度のマイナ具合が好ましい*1.

一條裕子の世界観は川上弘美を彷彿とさせ, その「ものの見方」は岸本佐知子を彷彿とさせる. つまりベタ誉めしているのである.

(やや古めの日本, といったイメージの舞台で)静かに淡々と進む日常風景の中に, こっそりと, しかし, 強烈な印象を残す「違和感」*2をこれでもかこれでもかとネジこんでくる, というのが一條裕子作品の典型であり, そういう意味での代表作はなんといっても「わさび」である, と勝手に思っているのだが, この「静かの海」はそれに匹敵する名作である.
そもそも一人称が「家の中にある家電製品・日用品」である時点で歪んでいるのである. そんな無機物の視点で, ごくごく普通の「ばあさんと孫」のやりとりを, 時には温かく見守り, 時にはシニカルに批評する. 手法は斬新ではないかもしれないが, 漫画でこういうことをこれだけの完成度でやってしまうのはさすが一條裕子である.

*1:なんなら西原理恵子とか吉田戦車とかも含むつもりである. 「非少年誌系」と言った方が正確かもしれない.

*2:無関係な物事を突然配置するのではなく, 背景に溶け込むような「日常の違和感」である