くいしんぼマニュアル

くいしんぼマニュアル (MF文庫 9-19)

くいしんぼマニュアル (MF文庫 9-19)

この作品には全く限らないのだが, 大田垣晴子今和次郎の「考現学」を継承している, と思うのである.
初期の「サンサル」などの頃に比べれば大分その色は薄れているが, それでも「まさに今, 社会では(特別な事としてではなく, 極普通の生活において)何が行なわれているか」を記述するスタイルはまさに考現学のそれである.
さらにもう一つ, 普通のエッセイに比べて大田垣作品が考現学的である部分は, 各テーマに属するトピックを「尽くそうとする」態度である. この「くいしんぼマニュアル」にしても, 和洋中エスニック, 各国料理, 様々なスタイルの料理を尽く挙げようとする構成になっている. 「面白そうないくつか」でも「自分が好きないくつか」でもない. とにかく「全部」をカヴァーしようとしている(ように見える)辺りが考現学的である.

考現学

それにしても, こういった考現学的アプローチで社会を記述している例をあまり見ない(大田垣晴子くらい?)のは何故か. 考古学などと言って, 既に無くなっている過去の「生活」を少ない手掛りから探るよりは, まさに今の生活を記述して将来に残す方が確実ではないか. まさか「ミステリみたいで面白いから」考古学的手法の方が良い, などとは言うまい.
そんなことは当り前なわけで, ということは, 素人が知らぬところでちゃんと資料が残されているのであろうな(マスコミのような激しいバイアスがかかったメディアでもなく, インターネット上の生データのような乱雑な情報でもない形で). 絶対に面白いと思うから, 公開すべきである(されている?).

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